【ウェブアニメ探訪】「不思議の国とアリス」
今回は、自主制作3DCGアニメーションムービー「不思議の国とアリス」を今年の3月に完成され、個人サイトにて発表、TAF(東京国際アニメフェア)2008 にも出展された「ニブンノイチケイカク」代表そうまあきらさんに、お話を伺いました。

僕が「不思議の国とアリス」を知ったのは今から(2年前)2006年、mixi「ウェブアニメが好き」コミュを運営し始めてからです。当時、コミュに参加くださった「ニブンノイチケイカク」さんのサイトで、制作費などDVD予約を前提の出資で賄い、本編の制作を進行させるという独特の制作システムを知り、そのロマンに惹かれ、この2年近く不定期に更新される本編の(予告編)トレーラーなどを興味深く拝見させて頂いてきました。この4月にはサイトにてDVDの販売も始められるなど、また新たな展開を見せる「ニブンノイチケイカク」さんの活動を改めて振り返る形で、本作について、そしてその制作システムについて、そしてこれからの作品ことなど、かなり掘り下げたことまでお話して頂くことが出来ました。
【そうまあきら/プロフィール】
自主映画、音楽、ミニコミ編集など各種地下活動を経ているうちにMacに親しむ。レジデンツ「フリーク・ショー」に衝撃を受け3DCGを独学で習得。1996年1月よりCD-ROMマガジン「POD」「CURIOCITY」参加。
1996年10月よりフリーランス。2004年9月ニブンノイチケイカクを立ち上げる。2008年「不思議の国とアリス」完成。
◆視聴者が作品と戯れるような感覚を目指して作る
——「不思議の国とアリス」は、そうまさんにとって初めてのCGムービー作品なんですか?
もちろんこの規模の作品を作るのは初めてですが、CGムービー作品としては初めてではないです。CD-ROMマガジンでショートムービーの連載をしてました。その後「不思議の国とアリス」を10年も引きずってしまったので…その間も雇われCG屋としての受注ムービーは色々作っていたんですが、オリジナル作品に関してはかなりブランクが空いてしまったので。いったんリセットということで、これを処女作ということにしてもいいですけど。
——CD-ROMってところが時代を感じさせますね。
最初に「不思議の国とアリス」を制作したキッカケなどあれば、教えてください。
企画立ち上げが前世紀なもので…よく覚えていません。強いて言えばカルマでしょうか(笑)。それを成り行きと呼んでもいいかもしれません。はい。
——なるほど(汗)。ではオリジナルのシナリオでなく、「不思議の国のアリス」を原作にしたのは何故でしょう。
そうですね…。大きな理由は「多くの人が知っている話だ」ということです。私はいわゆる「ストーリーテリング」ということにあまり興味がないんです。それに、そもそもこの長さの映画やアニメは、物語を語るのが苦手なメディアだと思っていて。物語の筋はなるべく単純なものにするか、今回のように、よく知られた古典を使うかして、その分、そこで何が起きているかや登場人物の雑多な関係性などの描写に力を入れることが、映画的であると思っています。物語の「筋」にではなく、古典落語のように物語の「語り方」「文体」に興味があるんです。というか、そもそもこの原作に「物語の筋」はあんまりないような気もしますが。
——「古典落語のように」と説明されると分かり易いですね。
で、さらに大きな理由は「好きな作品だったからだ」というのはもちろんですね。
——ですが、原作「不思議の国のアリス」は、ダジャレや語呂合わせなど言葉遊びで出来上がっている、言葉が主役の作品ですよね。
ええ。なので「映像化して面白いか?」「映像化する意味があるのか?」という思いは強くありました。実際、過去に映像化されたもので上手くいっているものはあまりないように思えます。シュワンクマイエルは成功してると思いますけど…。
あ。念のためフォローすると、他の映像化作品自体がダメという意味ではなくて、キャロルの魅力を映像化出来ているかどうかという点に関しての印象です。そして拙作がそれらより面白いと言っている訳でもないです。それでも徐々に色々ネタを思いついていき、デパートを舞台にするとかを思いついたあたりで、あ、これならいけるかもという手応えをつかめたので、やってみることにしました。
——デパートを舞台にしたというのは僕も面白いと思いました。その着想は何処から?
ちょうどその時期デパートをうろつくのが個人的にブームでして。普段暮らしている自分と全然関係ない物がずらずらと商品として並んでいるのが面白くて、何かすごく不思議な空間に思えました。「何でもあるのに自分のものは何もない」というか。それで企画考えているときに、「アリス」の色々なシーンを売場に当てはめていって、「あ、これはいけるかも」と思ったので採用にしました。それから「商品」というものはフリーデータも結構拾って来ることが出来るだろうし、モデリングを発注するときも楽チンかなという読みもあったのですが、これは「楽チン」という面に関して大ハズレでした。えらい大変でした。止めとけばよかったです(笑)。
それともうひとつ、実は高野文子先生の「ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事」のパクリという要素もあります。結果全然似てないものになったと思いますが。
——作られてみて、改めて原作について思うことはありますか。
やっぱり面白い作品だと思います。制作中も折に触れ原作を読み返していたのですが、ここは映像化するより文字での表現の方が絶対面白いなぁという箇所ばかりでした。それにデタラメであるという点でも拙作は、デタラメに主軸を置こうと心がけたにもかかわらず、原作に遠く及ばなかったと思います。
——では「不思議の国とアリス」を観て感じて欲しいことは…
基本的に「作者の死(※)」というスタンスを取りたいと思っていますので、特にありません。受け手が自由に解釈して、作品と戯れることが出来るように色々な物・事を色々に配置していますので、好き勝手に楽しんで頂ければ幸いです。
逆に言うとそのような能動的な観客となってもらうのが望みですね。とりあえずは視覚や聴覚を特定の場所に固定せずに、全体をぼんやりとなんとなく視聴するのをおすすめします。
——確かに膨大なビジュアルイメージは圧巻で、且つ、楽しかったですね。
それから、自分で映像化してみて改めて気付いたんですが…「不思議の国のアリス」の題名はほとんどの人が知っていますが、意外と原作を読んでいる人が少ない気が…。
だからこの機会に、是非みなさんに原作を読んで欲しいと思います。できれば原語で。日本語訳なら「ちくま文庫」の柳瀬尚紀訳がおすすめです(笑)。繰り返しになりますが言葉が主役の作品ですので、直訳して「英語ではここがこういう風にダジャレになっている」とかいう注を付けたような翻訳では、研究書としてはいいかもしれませんが、作品の一番の魅力が台無しになってしまうと思います。
※参照「作者の死」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%9C%E8%80%85

◆ムービー制作のプロセスも作品にしたい想い
——本作の着想は10年前とのことですが。
「第一期」と呼んでいる時期で1998年から1999年頃です。その時は、企画、脚本、絵コンテ、キャラデザイン、レイアウト、セリフ収録、パイロット版作成、あたりまでやってプロジェクトがいったん凍結になりまして。スポンサーに逃げられたのが主な理由です。その後しばらくひとりで作っていましたが、いつのまにか停止してしまいました。
——ちょうどITバブルがはじけて景気も悪くなってた頃ですね。
しばらく寝かせた後、2003年頃からまたひとりでチクチク作りはじめました。最初は部分的に作って営業ネタとして使えればいいかとも思っていたのですが、3Dソフトも乗り換えて実作業部分はほぼ最初からやり直しにして、それである程度キャラとかが出来てきて、コンテにもかなり手を入れて、とかしているうちにやっぱり全部作りたくなって。そうなると元々の企画規模からいって戦力の補充が必要というか、ひとりでやっていたらそれこそいつ出来るのかわからないぞということで、2004年9月「ニブンノイチケイカク」を立ち上げました。なので、それから数えると完成までは3年半ということになります。
——現在のスタイルになられてからでも3年半ですか。紆余曲折あったわけですね。
それで今回の制作システムは、要約すると『WebサイトでDVDの予約を募り、それを資金にして制作を進める』ということでしたが、それはどういった経緯で?
そうですね。あくまで、作者というものは作品を「作りたい」から作るのであり、「金を儲けたい」から作るのではありません。しかし、ある程度資金を回収しないと、特に今回のように短編ではなく、中編や長編の作品に挑戦する場合、もともと物資に乏しいインディーは、一本作って力尽きて自滅してしまいます。そうでなくて、持続的に作品を作りたいのであれば、そして、メジャーと違うことをやるからインディーの意味があると思って作っているのであれば、その「作りたい」の持続と、ある程度の資金の回収が必要になるわけです。それでどうすればいいかと思ったとき、システム自体を変えてみたらどうだろうという思いに至りました。大きな原発を1個ドーンと作るんじゃなくて、家々の屋根にソーラーパネルを付けるのがこれからのスタイルじゃないかと。
小数の物好きが集まって金を出し、資金は少ないのだけど、好きなものを作れるという楽しみを、ギャラを補う「報酬」として受け取って作者は作品を作る。そんなシステムが可能なんじゃないかという…まぁ、出来心からです(笑)。
——じゃあ、もう大人数で作る商業的な作品には関わらないぞということですか?
そうではないです。一方で金と欲とにまみれてスポンサーの制約でがんじがらめになって、そのなかでどう作品を作るかという道もあるわけで、みなさんそこで素晴らしいものを作っているわけですから、それらは尊敬していますし自分でも挑戦したいと思っています。泥の中から花を咲かせる蓮が尊い…みたいなことを大乗仏教好きとしては思います。ホントに。
でも、今回はそうじゃない方法を試してみたということで、これが理想的なのかどうなのかは分かりません。私としてはいわゆる個人アニメの閉塞した雰囲気はあまり好みではなく、人と意見が沢山交わるところに出来る作品の方が面白いと思っています。
——そういった意味で、理想を追求したというか、従来のスタイルに囚われたくなかった。
まあそんなカッコいいもんじゃなくて、作りたいように作ったというだけなんですけど。それから「予約システム」に伴う本編以外のおまけ、段ボールパッケージ、WEBサイトといった部分ですが、これらの制作を通じて、アニメ・CG以外のスキルを持った人々、普段アニメ・CGと関係ない生活をしている人々をも作品に持ち込みたいと思いました。また、結果だけでなく過程も作品に取り込めたらとWEBで毎週途中経過を公開しながら作ることもやってみました。とにかく全部ぶち込もうと。「ニブンノイチケイカク」の名前の由来でもあるフェリーニの「8 1/2」、これは大好きな映画なんですけど、その主役の映画監督が自分の中と外のいいものもダメなものも全て受け入れてみんなで輪になって踊ろうというラストシーン、そんなことがしたかったんです。出来たかどうかは分かりませんが。
——そう言えば、公式サイトも隅々まで観てみると楽しいですよね。
つまり、そうしたことも含めて作品なんだということですね。
はい。ただ、これら本編以外の要素に関しては私の知らないところでもっと自由に勝手にみんな遊んでくれるといいなと思っていましたが、意外と乗って来てくれる人が少なく残念でした。みなさんそんなに暇じゃないということなんでしょうけど。もちろんここでも少数の乗って来てくれた人たちは存在しましたし、その方々には大変感謝しております。
——で、そのシステム反響はどうだったんですか?
散々でした。ほとんど無かったと言ってもいいでしょう。完成して現在サイトでDVDを販売中ですが、いまだに反響はないですね。批判すらされないという最も寂しい状況です(笑)。
——それは辛いかも(汗)
予約システムに関して資金はごく少額しか集まらず、経済的には大失敗です。避けたかった「自腹切りまくりスッカラカン」という結果に終わりました。
問題点は恐らく二つで、ひとつはスケジュールの長期化です。というか、最初に採算等をちゃんと考えていなかったことで…さらに原因をさかのぼると、そもそも予算がある条件で立てた企画だったため、自主制作ベースでやるには作品規模や作風にかなりの無理があったということだと思います。もう一つの問題点は、私が無名作家だったことです。やっぱり得体の知れない作家のまだ出来てもいない作品にお金を払うような酔狂な人はそうそういなかったということだと思います。
——でも、こうして完成できたというコトは、悪いことばかりでは無かった?
そうですね。そんな状況のなかで100本弱というもったいないほど多くの予約を頂けたことは、大きな励みにもなり、そのご予約者様の存在がプロジェクトを途中で投げ出さず、作品を完成まで導いてくれたのは確かなことだったと思います。
また、同時に募集していたスタッフも少数しか集まらなかったのですが、集まってくれた方々はモチベーションもスキルも高く、とても頼もしい戦力となりました。これらのつながりを得られただけでも、総合的には成功と言っていいんじゃないかという気がします。
——公式サイトの方では、スタッフの方々の紹介も見られますね。
もうちょっと名が売れたら、ソレ向けの企画をちゃんと考えて、再度こういった制作スタイルにも挑戦してみたいとは思っています。

◆今後の「ニブンノイチケイカク」の方向
——「不思議の国とアリス」について今後の予定などがあれば、教えてください。
以前から色々な方に指摘されていたのですが、先日、東京国際アニメフェアに出展してみて、やはり海外、特にヨーロッパの方の反応がいいということもありまして、海外版を作りたいと思っています。声を入れるのは現実的じゃないので字幕になると思いますが。
まぁ原作が英語だし、かなり原作に忠実に作っているつもりなので、割と簡単なんじゃないかと思っていたのですが、オリジナル部分のダジャレをどうするかとか、その他色々問題点が発覚していて実は結構面倒くさそうです。
——海外向けって面白そうですね。とても楽しみです。
それから、アニメーション系のコンテストにも出品したいのですが、大抵のコンテストの応募条件が長くても「30分以内」となっていまして、1時間近くも尺があると応募できないということに、完成してから気付きました。それで30分版、さらに10分版、15分版なども作れるといいかなと思っています。ただしこれも半分以下に切って、なおかつ最初からその尺で作った作品と比べて見劣りしないようにまとめるのはかなり難しいので難航しそうです。
その他、各種メディアでの配信等は前向きにやりたいのですが、現状お声がかかりません。かけてください(笑)。
——先日の第20回CGアニメコンテストに出品されていて「外伝」に選ばれていますね。
はい。DoGAさんのCGアニメコンテストは尺の制限がないので出せました。とは言っても入選ラインが「DVD1本分に収まる」とのことなので、長いのはやっぱり不利かなと。結局短縮版にすることで「外伝」に滑り込ませてもらえたという感じです。
実は歴代入賞作とかを拝見する限りでは、本作はちょっと評価されにくいかなと思いながら応募してみました。お互いの評価軸が噛み合っていないというか…土俵が違うというか…。まぁ恐らくこっちの土俵が間違っているんですけど。そんな中で、「異色作」という括りですが、ひとまずは引っかかれたということは他者と交通する多少の力を作品が持ち得たということではないかと喜んでおります。本当は入選したかったですけどね。待遇全然違うし(笑)。ということで…また出直して参ります。
——では最後に、次回作などの構想や今後やってみたいことなどを。
ひとまずはこれの反動で、コンパクトなもの、キャッチーなもの、脱力なもの、いわゆるWEBアニメ的なものをやってみたいです。いままで割とそういう方向が得意だった気もしますし。
実は個人的に最近注目のアニメは「ソワカちゃん」だったりもしまして。ネタに関する引き出しの部分もかなりシンクロしているようで随所でニヤリとさせられますし、あの軽快さには憧れています。ところで「ソワカちゃん」は曲がメインで絵は添え物的な評価が多い気がしますが、絵もアニメも相当上手いと思います。特にアニメーションのリズムは絶品です。それはさておき、そんなこんなで「フォトリアルレンダリング」はもう懲り懲りなので、ひとまずセル調レンダリングの練習でもしようかと思います。
というか、やりたいことは山ほどあるので何でもいいです。別にCGじゃなくてもいいので…人形アニメとか、実写とか。あ、バンド活動でもいいです。
——いや、実質3年半とは言え、着想から10年の長い間ほぼ一本の作品を作り続けていらしたので、かなり溜まってますねー(笑)
あ、結構本気なんですけど。じゃあ、これはもうちょっと色々な修行を積んでから挑みたい話なのですが…宮沢賢治をやってみたいです。それも一般的に浸透している清廉潔白でウェットな賢治ではなく、野蛮でドライな賢治を。
宮沢賢治は詩人なので、詩人は常識の外にある真実を日常にぶつける役目を担っていますから、かなり危険な存在だと言えます。世界はそういう刺激を受けていないと硬直化し画一化した貧しいものになってしまいますから。そんな作業を目指したのが宮沢賢治だと思っています。やさしくとっつきやすい仮面を被り、広く深く無意識を経由して世界に揺さぶりをかける非常識な賢治。そういう賢治の芸風を引き継いだようなものをそのうち是非ともやりたいです。
——それは面白い切り口ですね。是非、観てみたいです。ホントに。
今後もいろいろ楽しみにしています。ありがとうございました。
完成したDVDを拝見させて頂きましたが、初見では、インタビューでそうまさんが仰るように、ある意味、原作に忠実な作品だけに今風のエンターテイメントとはちょっと違った印象を持ち、正直戸惑う感じもありましたが、繰り返し視聴するたびに、舞台に選んだデパートの設定の面白さや、原作をそうまさんがどう解釈してシナリオ化したのかなど、本作の持つ遊び心や奥深さを感じるようになりました。 主人公をはじめ、声優さんたちの仕事も素晴らしいですし、音楽も素敵です。何より「これでどうだ」と言わんばかりの圧倒的なビジュアルを隅から隅まで堪能して欲しいと思います。更には今後の作品についても、とても魅力的なビジョンをお持ちで。更なるご活躍に期待します。 あと、DVD購入される方は、視聴前に公式サイトを(旧サイトも含め)ジックリ読んでみることもお奨めです。多分「不思議の国とアリス」の世界にぐっと入り込みやすくなると思いますよ!
【関連サイト】
■不思議の国とアリス/そうまあきら・ニブンノイチケイカク
http://0-1-2.org
■DoGA>>CGアニメコンテスト
http://doga.jp/contest/
【mixi「ウェブアニメが好き」コミュ管理人・亜樹28号/20080519-21】
ちなみに、僕が「ウェブアニメ」と称するのは(プロアマ問わず、有料無料を問わず、個人サイト動画配信サイト問わず)Web上で視聴できる作家性の強いオリジナルなアニメーションのことです。
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